こちら救急運命裁縫室

第一話：赤い糸

「来月にある新人向けの部署説明会の挨拶だよ。ってか、お前も少しは仕事しろよ」
「別に一人ぐらい大丈夫だろ。働き蟻の中には一定数サボる奴がいるっていうし」
「そういうくだらない知識ばかりつけて」

　私物であるハンモックに揺られていた声の主は、渋々起き上がって隣の席に腰掛けた。ポケットからオペラグラスを取り出すと、まるで演劇を鑑賞する貴人のように、優雅に窓の外を眺め始める。

　人の一生は、まさに一つの演劇のようだ。どんなに味気ない人生だとしても、そこには誰かしらとの繋がりがあり、その織り重ねによって世界に一つしか無い、その人だけの物語が紡がれていく。

　僕たち天使の仕事は、神様の言うとおりに運命の糸を結んでいくことだ。言うなれば、神様が想像した壮大な地上絵巻きの演出家といった存在だろうか。世界各地に営業所があり、そこに派遣された天使たちは日夜、各省庁が担当する運命色に対応した業務に従事している。