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僕たち天使には文部科学省より、神器と呼ばれる非常に便利な仕事道具が支給されている。その一つである双眼鏡は、形やレンズの数は様々だが、特定の相手を設定すると常にその姿をのぞき見ることができる。
「彼は?」
「予報によると、これから運命の相手と巡り会うことになっている」
手元にある広辞苑みたいな分厚い本も神器であり、担当する地域に住んでいる人間たちの基本情報や運命模様が書かれている。これからの事は分からないが、これまでの事、今の状態はすぐに確認することが出来る。
「何色?」
「赤だ」
「珍しい、気づくかな?」
「どうだろうな。気づくに五枚」
「えっ、マジで? じゃあ、気づかないに十枚!」
自分の双眼鏡で彼を覗いた僕は、ミカと共にその行動を見守った。ターゲットの少年は、ごく普通の中学生だった。クラスでは影の薄いようだが、友達は少なくない。
そんな平凡的な人生を歩んできた彼の、後の人生が大きく変わるかもしれない瞬間を、僕たちは静かに見守り始めた。
「あと数分?」
「三分!」
「この瞬間は、何度経験してもドキドキするね」
珍しく学校をサボった少年は、制服のまま商店街を歩いていた。目的は分からない。だが、どこかを目指しているようだ。彼の目の前を、無数の人間が闊歩している。その中の一体誰が運命の相手なのだろう。
もう一つの神器である砂時計が、運命の色糸で結ばれた相手と遭遇するまでの時間を知らせている。
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