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声を荒げている僕たちに、背後から声がかかった。振り返るのと同時に、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「また賭け事してるの?」
「ちゃんと仕事してましたー」
やってきたのは、僕たちの隣の部署に勤めているルカエルだった。仕事帰りに寄ったのだろう、黒いボディースーツに大きな鎌を手にした姿は、人間たちがイメージする死神そのままだ。
しかし、彼女の仕事は魂を回収ではなくて、死んだ人間が紡いだ色とりどりの糸を管理することであり、死神の仕事とは殆ど関係ない。にも関わらず、死神と勘違いされることが多いのは、糸を裁ち切る神器である大鎌や闇に隠れる黒装束の所為だ。
二十五秒に一人が天に召される現代で、毎日秒刻みの仕事に追われて彼女は、相当ストレスが溜っているようで、回収してきた色糸の束を狩猟した獲物でも自慢するかのように握っていた。
「もう少し大事に扱えよ」
「別に良いじゃない、終わった人間の糸なんて」
「でも、それはまた別の人に使われるんだから」
「はいはい、ユミイルは相変わらず真面目なんだから」
新しく生まれた人間に結ばれる様々な糸は、死んだ人間から回収されたものが再利用される。時折、前世の記憶を持った子供が生まれるが、これは、再利用された糸に前人の記憶が残滓として染みついていることあるからだ。
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