第一話:赤い糸

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「でも、どうして彼はすぐに手を離したんだろう。引っかかれた?」 「ある種のトキメキは感じたはずだが・・・・・・」  彼についての報告書をのぞき見していたルカが、心底残念そうに続けた。 「彼、猫アレルギーみたい」 「えー。そんな事って」 「不条理だよねー」 「運命って何なんだろうね」 「こういう仕事をしているとわからなくなるよな」 「そもそもわかるわけないでしょ、神様が考えてる事なんて」  神様の気まぐれで結ばれた糸が、本来の力を発揮することはもう滅多になくて、僕たちはただ、悪戯に人生を翻弄される人間たちを空から見守ることしかできない。  そうして、結ばれることなく終わった運命の糸が、徐々に細くなり、やがて千切れてしまうまでを眺めていると、妙に沈んだ空気を一掃するかのように、電話のベルがけたたましく鳴り響いた。  電話を取ったルカの表情に緊張が走る。  滅多に見せない真剣な表情に、大きな仕事が始まる予感がした。  久し振りに地上に降り立った僕たちは、通報があった現場に急行した。天使の翼で空を飛ぶんじゃなくて、どこでもドアのような通路を通って下界に降りる。     
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