月明かりの差し込む部屋で

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月明かりの差し込む部屋で

低い声が聞こえる…… あ、頭痛い…寝返り打てないし…… 目を開けると、明かりとは違う優しい光が窓から差し込んでいるのがわかった。 ほんのちょっとだけ首を傾けられたので、その光を追った。 月明かりだ。もう夜なんだ。 優しい明かりに、涙が出た。 命を落とさないための手術だけど、代わりに心がすり減ってる気がする。 心も体にも傷をつけた満身創痍の私を、月明かりは優しく照らしてくれて、やっと落ち着いた気がした。 やがて、男の人の声が止み足音が近づいてきた。 「鈴木さん…?目が覚めたようですね。」 田中先生だった。 そっと、目からこぼれ落ちてくる涙を何度も指でぬぐってくれている。 「涙、止まらないね。」 そういうと、ナースステーションへと行って何かを伝えているようだ。 ……戻ってきた先生は温かいタオルで目を覆って、涙でカピカピになっていると思われる箇所を優しく拭いてくれた。 「………泣きすぎ。」 と、笑いながら、止まらない涙を拭う。 先生に声を掛けたいのに、話したいのに、 言葉がでない。 言葉がわからなくなっている。 それを察知したようすで、先生が私を見た。 「鈴木さん、ゆっくり言葉を頭に浮かべてみて。」 ……… 「たね、ちかよな…★◎#&!@……」 言いたい文字と違う文字が出てきて伝わらない…… 苦しい……どうしたらいい?? 先生は、静かに手を強く握り 「「手の力が入らない」って言ったんだね。 握られてるの分かる?手を少し上げてみて。」 分かってくれた。 私が言っているコト、理解してくれた。 手を上げても脱力しているせいで、バタンと落ちてしまう。 「心配しないで、落ち着いて深呼吸して。」 手の症状が落ち着いて来たら、次は足に違和感が起き始めた。 足をチラッと見ると、先生もチラッと私を見て 「次は足、脱力来たのかな?曲げられる??」 と、声をかけてくれた。 曲げた足はストンとベタンとなってしまう。 「深呼吸して、ゆっくりゆっくり呼吸してみて。」 深呼吸だらけだ。 「何度も辛いと思うけど、泣いていると血流が活発になりすぎてしまって血圧も上がってしまったりして脳が疲れちゃうんだ。明日、野村先生から話があると思うんだけど、今、鈴木さんの脳の中は、足りなかった血流が手術のおかげで急に増えて、脳の方がパニックになって誤作動を起こしているんだよ。しばらくすると治るから、安心して。」 足にも力が戻ってきて私は落ち着いた。 田中先生も、症状が出なくなり血圧を確認し、 手を握ったり、足を触ったりし通常に戻った事を確認していた。 「少し、ここにいてもいいですか?」 と、言いながら椅子を広げて座った。 「………月がキレイですね。ここの場所は前の公園の緑も見えるし、景色がいいんですよ。顔の腫れが引いて落ち着いてきたら、景色を堪能して下さいね。」 「……月……大好きなんです、私」 !? 普通に言葉が出た! 何で?? 「(笑)今は普通に話せましたね(笑)ムラがあるものなので出たり、出なかったりします。 だから、もう、泣かないで。」 そうなのか、ショックだけど治るのならしばらくは付き合わないと。 少し、気持ちに整理がついた。 「今日は疲れました。手術のフォローに入った後、午後は他院で外来の仕事をして帰ってきたので。お腹がすいたかも(笑)」 先生の声を聞いて穏やかになったからなのか、笑みがこぼれそうになったけど、傷が引きつって痛みが戻ってきた。 「落ち着いた?じゃ、僕はご飯を食べてきますね。鈴木さんはもう少しで食べられるようになるかな?だから、まずゆっくりしましょう。 今日は僕、宿直なので居ますから、何かあったらナースコールして下さい。また後で来ますね。」 先生は立ち上がり、病室を後にした。 夜空を眺め月明かりに照らされ、だいぶ心穏やかに過ごせる夜だった。
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