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「開けないでください」
Mの声は柔らかで、しかし有無を言わさぬ口調だった。
部屋の隅にあった小さな冷蔵庫に手をふれた瞬間だった。
「あ、ごめん」と、俺はぱっと手をひっこめる。
別に中を覗こうと思ったわけではない。キッチンにはもう少し大きめの2ドアの冷蔵庫があるのに、どうしてリビングにも冷蔵庫があるのか疑問に思ったからだ。
高さは五十センチくらい。白色の1ドア。ビジネスホテルに置いてあるような普通の冷蔵庫だ。ひょっとして都度台所に行かなくて済むよう、飲み物でも入れてあるのかと思いきや、Mは意外なことを言った。
「それ、ガキを入れてあるんです」
「……ガキ?」
ガキというと、子ども? 子どもが冷蔵庫の中に? Mはまだ独身だし、婚外子がいるという話も聞いたことがない。いや、それ以前に子どもを冷蔵庫に入れるなんて……。
俺の強張った顔を見て、Mは一瞬きょとんとし、すぐに笑いだした。
「勘違いしてません?」
Mがスマートフォンを操作し、俺に寄こした。
ブラウザに表示されているのは『妖怪辞典』というホームページだった。
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