冷蔵庫の中には

2/5
前へ
/5ページ
次へ
「開けないでください」  Mの声は柔らかで、しかし有無を言わさぬ口調だった。  部屋の隅にあった小さな冷蔵庫に手をふれた瞬間だった。 「あ、ごめん」と、俺はぱっと手をひっこめる。  別に中を覗こうと思ったわけではない。キッチンにはもう少し大きめの2ドアの冷蔵庫があるのに、どうしてリビングにも冷蔵庫があるのか疑問に思ったからだ。  高さは五十センチくらい。白色の1ドア。ビジネスホテルに置いてあるような普通の冷蔵庫だ。ひょっとして都度台所に行かなくて済むよう、飲み物でも入れてあるのかと思いきや、Mは意外なことを言った。 「それ、ガキを入れてあるんです」 「……ガキ?」  ガキというと、子ども? 子どもが冷蔵庫の中に? Mはまだ独身だし、婚外子がいるという話も聞いたことがない。いや、それ以前に子どもを冷蔵庫に入れるなんて……。  俺の強張った顔を見て、Mは一瞬きょとんとし、すぐに笑いだした。 「勘違いしてません?」  Mがスマートフォンを操作し、俺に寄こした。  ブラウザに表示されているのは『妖怪辞典』というホームページだった。    
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加