一対の記憶

2/12
前へ
/33ページ
次へ
 南下する新幹線の車窓に、冠雪の富士が見えて来た。 グリーン車の窓側の席でノートパソコンを開き仕事をしていた貴臣はふと、今朝早くに電話を寄越した滉の言葉を思い出した。 『俺は短気なんだよ。兄貴から話を聞くまでなんて待ってられねえ! 自分の手で真実を炙り出してやる』  一気に捲し立てた滉は最後に言った。 『香月の家はどうかしている!』  貴臣はクッと笑った。  あの家は、どうかしているなんてレベルじゃないんだ。 昔から狂っていたんだよ、滉。  貴臣はパソコンを一旦閉じ、側に置いてあったホットコーヒーを手にするとシートに身を預けて目を閉じた。  神経を休めようとすると、否が応でも蘇る声と記憶があった。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

339人が本棚に入れています
本棚に追加