一対の記憶

4/12
前へ
/33ページ
次へ
 貴臣は実年齢以上の賢さを持った少年だったが、実際に出来る事には限界があった。 母親という存在はまだ絶対であり、その母に強要される〝行為〟から逃れる術は持たなかった。  母から〝行為〟の強要をされるようになったのは、十歳になった春からだった。 背が高く早熟だった美貌の少年は大人びており、一見すると中学生以上に見えた。  そんな少年に母の香月美穂子は、歪んだ独占欲を持つようになっていった。 それは次第に、変質的な愛情へと変わる。 歪んだ愛は、病的な闇を生んだ。  十六という若さで母となった香月美穂子は、貴臣を生んだ八年後に双子の息子を生んだが、瑞々しい美しさはずっと失わなかった。 淫靡な妖しさを纏う美穂子は、自らの艶やかで滑らかな肌を貴臣に押し付けてきた。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

339人が本棚に入れています
本棚に追加