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アーは元々体が弱い奴でした。それに加えて温厚な性格でしたから、幼少の時をいじめられて過ごしました。
体が弱いってだけでなんでいじめられなくちゃいけないんだ、好きでこうなったわけじゃないのに。
両親を恨むことはあれど感謝することなどない、自分の体と両親を卑しむ日々です。
「強くなりたい」
それが彼の唯一の願いであり、王家の養育施設に入った理由でもありました。
しかし彼の体はその願いに応えることはできませんでした。訓練ですぐに体を壊してしまう彼は、最初の頃は怪我をした体を引きずってまでも訓練に参加していましたが、途中からは養生のために見学している時間の方が長くなっていました。
結局、彼の配属は調理人に決まりました。王家直属の調理人というだけで十分すごいのですが、私は彼が喜んでいる顔を一度も見せなかったのを覚えています。そして、配属が決められる前日まで誰よりも訓練を積んでいたことも。
もちろんご存知のようにこの旅路でも彼の配属は調理人でした。彼の素晴らしい料理の味、お嬢様も覚えていることと思います。
しかし、もう味わうことはできないのです。
彼はウーケン国の暑さに弱り、持病が悪化して亡くなりました。
激しい運動等をすることで進行が進む心臓の稀な先天性の病だそうです。彼が亡くなる直前、彼の口から聞いて初めて知りました。今までずっと隠していたそうです。
それは施設に入ってすぐの検査で発覚したものでした。その病には先天性なこともあり特効薬がなく、進行を遅らせることしかできない上、運動等で病気を無理に進行させなくてもそのほとんどの場合が幼いうちに亡くなってしまうのだそうです。本来、幼児の頃に親が発見するべきもの、いいえ発見していたのかもしれません。
彼はそこで、この先どれくらい生きられるかわからない、持って五年程度だろう、訓練などしてはもっと早まる、そう言われました。無理に訓練せずとも調理人とかを目指せばいい、そうとも言われました。しかし彼は、今までの惨めな人生を変えるために来たんだ、そう言って聞かなかったそうです。
「どう、強くなったもんでしょ」
彼がその言葉を発しその人生を終えるまで、施設に入ったあの日から、十年以上の月日が流れていました。
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