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「何言ってんだミアナンデ! ちゃんと説明すれば……」
ミアナンデが背で、兵士に見えぬよう私達にハンドサインを送ります。逃げろ、と。姫様がお忍びでの旅をしたい、とのことでしたので王家と証明できるようなものは特にほとんど持って行かなかった上、ヴァットと共に雪崩に飲まれたのでした。彼ら兵士が私達を殺さない理由はあっても、見逃す理由はありません。戦場での知識と経験に富んだミアナンデなりの考えなのでしょう。覚悟を決めているのか、こちらに顔を向けない彼のその背には、一切の迷いがありませんでした。
「てめえ、何舐めたことぬかしてんだ……!」
アットが語気を荒げて言います。
「僕らは大丈夫でも、君はどうするんだミアナンデ」
「お願いします!」
私達が小声で彼に訴えるのを遮るかのように、彼は念を押しました。
「分隊長、どうしますか」
「ふん……いいだろう! 言ってみろ!」
兵士の長のような一人が答えます。
「ありがとうございます! では」
再び、ミアナンデは私達にハンドサインをしました。先程と違うのは、もう片方の手に銃を握りしめていることです。
「では...…なぜ、なぜ同族で争うのですか! 同じ血の通った国民ではないですか!」
「はははは! 愚問だ! それが貴様の最後の言葉でいいのか?」
ミアナンデは銃の安全装置を外しました。
「答えは、国民ではないからだ! 彼らは六十年前に我が国と併合した小国の分際で、ずっとひそかに王家の転覆を図っておった! 粛清されるのは当然だろう!」
「それでも六十年を共にした同じ仲間ではないですか! それだけ長ければ、同僚や親族にレッルンサの方々がいる人も大勢いるのでしょう。話し合うという道も選べたはずでしょう。あなたは友を、家族を撃てるのですか?」
「ふっ、平和なフィクホン様の王家を自称するだけあって考えが生温いな。そもそもこのクーデターのもくろみが発覚したのは、レッルンサ出身の密偵からの情報だ。それも一つや二つではない。友? 家族? 笑わせるな、自らを売ったのは奴ら自身だ! 逆に貴様は自分を裏切った友や家族を許せるのか?」
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