Airdrop

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 ある日のこと。松山さんがいつもどおりiPhone片手に朝のラッシュに巻き込まれていると、突然Airdropで画像が送られてきた。  画面には「辞退」と「受け入れる」の二択が表示されていた。  松山さんはゆっくりと周囲を見渡した。他の乗客は一様に俯き加減で、スマホと睨めっこしていた。普段と変わらない光景だが、疑いだせば誰もが怪しく思える。  いよいよ俺にもきたか。松山さんは感慨深くなりながら、両隣に座っている人に画面を覗き込まれないように顔に近づけて、「受け入れる」のボタンを押した。  そこに表示されたのは見知らぬ女性のスナップ写真だった。写真を撮られていることに本人が気付いていないのは、表情と構図からすぐに分かった。 「ついにもらったぞ、Airdrop痴漢!」オフィスに入るなり松山さんは誇らしげに画像を同僚に見せた。 「普通の写真じゃん。お前が痴漢されているというより、この写真の女性が被害者じゃねーか」 「まあ、そうだけど・・・・・・本当にあるんだな、こういうの。ドキドキしたわ」 「Airdrop解除しとけよ」  同僚の薄いリアクションに松山さんは落胆していた。
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