催眠

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 和田はうだつの上がらない人生を打開するために、催眠術の書籍を買いあさり猛勉強し習得。その最大の成果が今の妻なのだという。たまたま客としてやってきた時に催眠で落としたと語った。 「信じられない・・・・・・」M氏は正直に打ち明けた。 「そう思うのは無理ないよ」和田は一呼吸挟んで続けた。「こんな話を知ってるか? 催眠を掛けられた人の手の平に、これは熱したコインだと嘘をついて乗せると、熱さに驚いてコインを投げ捨てるが、手の平には火傷の痕が残るという話だ」 「知らないよ・・・・・・なにそれ」 「思い込みというパワーを侮ってはいけない。想像力は現実を変化させることができるんだ。世の中でいわゆる成功者と呼ばれている人たちは、自己催眠を掛けているんだよ。絶対に俺は成功するってね。自分の輝かしい未来に一抹の不安も抱かない。それが成功の秘訣さ」 「その成功者たちとお前は別だろ。お前のやってることは詐欺に等しい。女を催眠で騙しているだろ」 「おいおい、冗談じゃないよ!」和田は声を荒げた。「俺は人を救ってきたんだぞ!」  和田は催眠を掛けることによって治療が困難な人を治してきたのだという。ステージ4の患者ですら彼の前では夏風邪程度だと豪語していた。「私はこの病気に打ち勝つ」と暗示を掛ければ、人間の持つ潜在能力が引き出されて自然に治癒してしまうのだという。
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