赤い冷蔵庫

8/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
やはり愛していたのだ。 俺は、瑛里華を愛していた。 何故、もっと話を聞いてあげなかったんだろう。 何故、もっと大事にしてあげなかったんだろう。 悔やみきれない気持ちが、次から次へとキッチンカウンターの上に零れ落ちる。 箱の中にそっと手を入れると、俺は、その赤いケーキをゆっくり取り出した。 「瑛里華……。俺の好きなのはモンブランだよ。君ってほんとに……」 その時、箱の内側に張り付いている小さなカードに目が留まった。 「これは……?」 手に取ったそれには、『瑛里華へ 昨夜は楽しかった。また誘ってね。庄司』とあった。 ーー庄司って、誰だよ。 同時に思い出した。 瑛里華は、俺の誕生日なんて知らない。だって、そんな話は一度もした事がないのだから。 俺は速攻ケーキを捨てた。賞味期限など関係なしに。 一週間ぶりに冷蔵庫の中を整理したら、新しい冷蔵庫を買いに行こう。 俺の部屋によく似合う、真っ白な冷蔵庫を。 了
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!