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やはり愛していたのだ。
俺は、瑛里華を愛していた。
何故、もっと話を聞いてあげなかったんだろう。
何故、もっと大事にしてあげなかったんだろう。
悔やみきれない気持ちが、次から次へとキッチンカウンターの上に零れ落ちる。
箱の中にそっと手を入れると、俺は、その赤いケーキをゆっくり取り出した。
「瑛里華……。俺の好きなのはモンブランだよ。君ってほんとに……」
その時、箱の内側に張り付いている小さなカードに目が留まった。
「これは……?」
手に取ったそれには、『瑛里華へ 昨夜は楽しかった。また誘ってね。庄司』とあった。
ーー庄司って、誰だよ。
同時に思い出した。
瑛里華は、俺の誕生日なんて知らない。だって、そんな話は一度もした事がないのだから。
俺は速攻ケーキを捨てた。賞味期限など関係なしに。
一週間ぶりに冷蔵庫の中を整理したら、新しい冷蔵庫を買いに行こう。
俺の部屋によく似合う、真っ白な冷蔵庫を。
了
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