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ある日父は、ペテン師になりたいと言った。
***
「お前、大人になったら、何になりたいん?」と、父が言った。
久し振りに、交わした親子の会話がこれ。
数日ぶりに帰宅しておいて。
たまに顔を見せたかと思ったら、親らしい話でもする気なのか偉そうにと、高校生の私は身構えた。
すると、父がニヤリと笑った。
「お父さんなあ、ペテン師になりたかったんや」
はあ?
ちょっと何言ってるかよくわからない。
「だからな、ペテン師や」
父の手には、紙パックの鬼殺し。
その手は細かく振るえている。
嬉しそうに笑いながら、呼気からは酒の臭いを漂わせて、父の話は続いた。
「俺はな、子供の時、大人になったらペテン師になろうと思っとってん。お前、なんか、なりたいもんあるんか」
本気で言ってるのか、冗談で言ってるのか。
まともに取り合ってはいけないと分かっていても、父の前になるとどうしても感情的になってしまう。
だんだんイライラしてきた。
「建築の学校行ってるんだから、設計か何か」
なげやりにいうと、
「お前はつまらんなあ」
そう言って、穏やかに微笑む父。
久々に、父と話した記憶はそこまでだ。
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