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再会して一年
ベージュのスーツの襟元を正しながら、駅前で買ったケーキの箱を持って久遠先生のマンションへ向かった。
わざわざ手土産にモンブランを買ったのは、先生は甘いものが大好きで、特にここのモンブランには目がないからである。
先生のお家は、タワーマンションの十五階。
作家と担当編集という関係上、私はもう何度も、その先生宅を訪ねていた。
久遠先生は神経質でありながら、人を家に招くことにはさほど抵抗感がない人だ。
一度行けば、数時間は入り浸ることができる。
それは先生が自宅というスペースに、何のこだわりも持っていないからだろう。
ケーキと執筆の他に、先生がこだわりを持っているものを、私は知らない。
作家という職業は変わり者が多い。そんなふうに言われてしまう原因の一端を、この久遠先生は確実に担っていた。
彼は、誰が見ても“変わり者”だったのだ。
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