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罪滅ぼし……それはきっと、別れてしまった彼女さんに対しての、だよね。
本人には、もうそれができないから……たまたまそばにいる、似た境遇の私を……?
刑事さんの胸中を思うと切なくなって、私は自分からも彼の体に手を回し、ぎゅっと広い背中を抱きしめた。
失恋したもの同士、傷をいやすように、静かに静かに、体温を分け合う。
「……落ち着き、ました?」
しばらくして、そっと身体を離した私は問いかける。
刑事さんはなぜか苛立ったように深いため息をつき、それから私をじっと見据える。
「まったく……俺は自分がわからない」
「え?」
「さっきは罪滅ぼしと言ったが、違うらしい。俺は……壊れるとわかっているものに、また手を伸ばしたくなってる」
呆れたように、頭をがしがし掻く刑事さん。
彼の言葉の意味をなんとなく察した私は、自分でも驚くほど顔が熱くなるのを感じて、戸惑う。
さっきまで落ち込んで泣いていたくせに、今はなんでこんなに心が浮足立って、くすぐったいの……。
ほんの少しの間、一緒に過ごしただけの相手なのに。
それに、彼の言うとおり……また、呆気なく壊れてしまうかもしれないのに。
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