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「これが、三百万円の夜景、か……」
海のそばにそびえる高層ホテル。その最高階の窓からは、観覧車にベイブリッジ、赤レンガ倉庫、大桟橋……目を凝らせば、遠くにスカイツリーや東京タワーまで見える。
こうして、東京湾に浮かぶ宝石を独り占めできているのだから、三百万円なんて安いものじゃない。
……なんて、開き直れればいいのにね。
「泣くな……つっても、無理か」
背後でダブルベッドに腰掛ける男が、仕方なさそうに呟いた。
窓に映りこむ私の泣き顔が見えたのだろう。恥ずかしいけれど、今更涙は引っ込められない。
私は窓の方を向いたまま、塩辛い味が口の中に流れ込んでくることにただ耐える。
瞳に映る夜景はすっかり滲んで、手に入れたはずの宝石は幻に代わってしまった。
「クリスマスなんて、くだらねぇよな、ホント」
吐き捨てるように言った男が、おもむろにベッドから立ち上がり、私の隣に並ぶ。
……大きな革靴。視線をそこから上へと移動させると、ダークグレーのスーツにレジメンタルのネクタイが良く似合う、端正な顔立ちがあった。
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