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「刑事さん……彼女、いないんですか?」
一度鼻を啜って、夜景を映して光る切れ長の瞳に問いかける。
彼は一度目を閉じ、それからほんの少し口の端を歪めて自嘲する。
「いたよ。……さっきまでな」
「さ、っき……?」
濡れたまつげを瞬かせて聞き返す。もしかして、私と同じなのだろうか。よりによって、クリスマスの日に恋人を失った、哀れで惨めな私と。
「今日は、本当は非番で……昼から一緒に過ごす約束をしていた。でも、こうして仕事が入っちまった。それで、謝りの電話を入れたら振られた」
何でもないことのように淡々と話す姿が切なくて、私は自分の腕に巻いた時計を確認して口を開く。
「これから、会いに行けないんですか? 仕事ならもう終わりましたよね? 私、警察署へは自分の足で行けますし」
時刻は午後七時を過ぎたところ。昼から、という約束は守れなかったかもしれないけれど、まだ始まったばかりの夜を一緒に過ごせれば、きっと彼女さんは嬉しいはず。
きちんと謝って、気持ちを伝えればまだ取り返しがつくんじゃないかな。
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