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「いや……もういいんだ。こういうことは今回だけじゃない。去年のクリスマスも、誕生日も、付き合って五年の記念日も……俺は傍にいてやれなかったんだ。彼女もいい加減愛想が尽きてるってことは、薄々、わかっていた」
彼の夜景を見つめる瞳が物憂げに細められ、胸がきゅ、と苦しくなった。
口では諦めの言葉を口にしつつも、やりきれなさがあるのだろう。彼の痛みが心に伝わるのと同時に、芽生えるのは罪悪感。
「私のせい……ですよね」
彼の“仕事”を作ってしまったのは、他でもない自分。
私が、あんな男に騙されたりしなければ。騙されていることに気付かずに、ノコノコこんな部屋にやってこなければ。
刑事さんのクリスマスは、もっと素敵なものになったかもしれないのに。
落ち込み俯く私の頭に、大きな手がポンと乗る。
「お前は悪くない。悪いどころか、一番の被害者だろ。金も時間も……心も体も奪われて、つらくないわけがない」
頭の上に触れるぬくもりと、私を慰める優し気な低い声に、再び涙腺が緩んでくる。
そして、自分の身に起きたことを改めて思い知る。
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