待てば待つほどに

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 こないだなんか、メニューに全然合わないワインを選ばれたせいでおいしくなかったからその場で説教したら相手の男、怒ってあたしにワインひっかけてきたのよ、ねえちょっと信じられる? 白ワインだったからまだマシだけど。なんて言ってた。ワインひっかけるような男もどうかと思うけどきっと、そうされても仕方ないほどカナコさんがひどいこと言ったに違いないんだ。とにかくカナコさんときたら普段から自制心だとかブレーキなんてないようなひとだけど、こと飯に関してはもう理性なんてないんじゃないかってくらいに、ひどいんだから。  頭の中がカナコさんのこと(ただし主に悪口)でいっぱいになってきたところで、僕は時計に目を走らせる。あともう五分くらいだ。今日はカナコさんが気に入ったという洋食屋でランチの約束をしているんだ。僕は期待ではちきれそうな胸に空気を送り込んでひとつ、溜息をつく。  焦るな、はしゃぐな、慌てるな。カナコさんの姿が見えたからってこないだみたいに満面の笑みで駆け寄ったりなんかしてはいけない。ここは大人の余裕で「ああ、カナコさん。こんにちは。今日も素敵なお召し物ですね」くらいのことを言えなきゃいけない。目標は英国紳士。そうだ今日の僕は、英国紳士になるんだ。
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