待てば待つほどに

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 時計の針がぴったりと重なり合って、僕の足元をハトが首を傾げながら歩き去っていった。約束の時間、ちょうどだ。  僕は改札の方へと首を伸ばす。まだかなあ。まだだろうなあ。まあ、ちょうどぴったりに着く電車ってのもなかなかないものだから、きっとあと数分で駅に着く電車に乗ったんだろう。そんなの遅れるうちにも入らない。  そうだカナコさんに会ったら何の話をしようか。こないだ見つけたちょっと珍しいサンドウィッチの話はどうだろう。ファラフェルという名前のコロッケが入っていたんだけど、カナコさんは食べたことがあるだろうか。なんでも中東の食べ物らしく、ひよこ豆にスパイスを混ぜて丸めて揚げたもの、なんだとか。かかっていたソースもフムスとかいう豆をすりつぶしたペースト的なやつで、これに辛みのアクセントが入ってびっくりするほどおいしかったんだ。珍しいなと思って試しに買ってみたんだけど、中東の食べ物っていうのもなかなか面白い。イスラムの影響で動物性の食材を使わないサンドウィッチなんです、という売り文句から想像もできないくらいうま味もあったし食べ応えもあった。カナコさんには必要ないかもしれないけれど、ダイエットに興味のある女の人なんかには抜群に受けそうだ。もしまだカナコさんが知らないようなら、今度は僕が買ってきてあげて二人で公園で食べたりしたら楽しいと思う。代々木公園とか、日比谷公園……ああそういえば、もうすぐ紅葉がピークなんじゃなかったっけ。  僕は早くも次の予定につながりそうなことを思いついて満足する。手首で時計が約束の時間から五分ほど経過したことを知らせてくるけれど、だがまだ慌てるような時間じゃない。僕の心の一休さんが「あわてない、あわてなーい」と言ってあくびを噛み殺した。
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