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「…良かった、無事乗れた。えっと、4つドアを開ければいいんだよね。」
優しい駅員さんで良かったと一息つく彼女は、廊下を進む。
緊張と不安は、初めてくる場所だからだ。
物珍しげに辺りを見渡すと、列車の装飾に目をとめる。
「昔の映画みたい…レトロだ。」
あまり見慣れない19世紀のオリエント急行ような西洋風の列車だ。
よく見ると電子音がし青色に淡く光っているが、よくここまで再現したものだと感心する。
ピッ、シュン
小さな電子音と風を切る音に振り向くと誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ。」
「うわっ、ごめんよお嬢さん。急いでるんだ!」
ドアから出てきたのは白いラフなシャツ姿の若い男で、勢いよく駆けてまたドアを越えて行った。
「ええ、大丈夫ですがって…もう居ない。びっくりしたぁ。」
崩れてしまった態勢を直し、女学生は再び歩き始めた。
廊下を進むと男が先程出て行ったドア。
ドアノブの絵に右手を翳すと、ピッと解除音がしドアが横にスライドし開く。
「通路はスライド式ドアなんだ。張りぼてか、そうじゃないか…ちょっと見分けるのがややこしい。」
レトロに統一したいのかそうじゃないのか、よく分からなくて可笑しくなり微笑む。
「こんにちは。」
ふと前を歩く老夫妻に挨拶をされた為、こちらも挨拶を返す。
「お嬢さんお1人かい?」
帽子を被った紳士は、私を高校生くらいだと思ってしまったのかもしれない。心配そうに声を掛けてくれる。
「はい。地上に用事があって。」
「まあ、大変ねぇ。途中駅には止まるけど7日間もあるわ、マーク。」
杖をついた夫人が紳士へ目配せをする。
「そうだねぇ、顔を合わせることもあるだろう。また会えればお茶でも如何かな。」
「是非!ありがとうございます。1人で不安だったので…」
優しげな2人に思わず満面の笑みが。
「良いのよ~私達の孫も貴方ぐらいだもの。何だか放ってけなくて。」
それではまた、と2人に挨拶し次のドアを開ける。
途中また何人かと出会い、同じようなやり取りをしてようやく部屋へと辿り着いた。
「ここだ…」
3号車、A-02号室と表示された札が目に入る。
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