予約

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予約

 川田さんがまだ学生だった頃、仲間内で流行っているささやかな遊びがあった。川田さんはそれを「予約ゲーム」と名付けていた。  混雑しているファミレスの入口には、予約の紙が置いてある事が多い。自分の名前や人数を記入し、呼ばれるのを待つためのものである。  そこに誰もが知っている有名人の名前を書くというものだった。店員はその人が偽者だと分かっていても、同姓同名の可能性があるため名前を読み上げなくてはならないのである。  呼ばれた瞬間、店内はいつも水を打ったように静まり返ったという。他の客たちは首が捻れんばかりに振り返り、有名人の姿を一目見ようとした。しかし実際に席に通されているのは、さえない風貌の学生たち。このギャップによって、店内の至る所からクスクスと失笑が生まれるのである。 「そんなことして、何が面白いの?」  今になって人にそう訊かれると、川田さんは何も答えられなかった。確かに何も面白くはない。不愉快に感じる人の方が多いはずである。しかし当時まだ若かった川田さんとその友人たちは、この遊びに夢中になり、まるで武勇伝のように自慢しあったという。  最初は人気アイドルやアーティストの名前を使っていたが、徐々に過激化し、麻薬で逮捕された芸能人や、自殺したタレントの名前すらも使うようになっていった。
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