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川田さんたち三人は、混み合っているファミレスに狙いを定めて入店した。入口近くに置かれている待合席は、順番待ちの客で溢れていた。川田さんは店員に促さられるまま、予約の紙に元少年の実名を書いた。
「あとは名前が呼ばれるのを待つだけだな」川田さんは小声でそう言うとメニュー表を開き、特にお腹が空いているわけではなかったので、軽めのメニューを選んでいた。
「知らない人の方が多そうだけどな」友人は呟いた。
「そんなことないよ。なかなかのネームバリューだ」
他の客が次々に会計を済ませて店を出ていくのを見届けると、いよいよ自分たちの番がやってきた。
「○○様?」
店員の声が聞こえてきたがスルーした。最初は名字だけで呼ばれることが多いからである。今回もそうだった。
「○○○○様?!」店員はさっきよりも大きな声でフルネームを読み上げた。
「あ、はい」川田さんは軽く手を挙げて応答した。
周囲を見渡すと、他の客は食事と会話に夢中で、まったく反応がなかった。川田さんたち三人は通路を歩き、案内された席に座ると、互いの顔を見合わせていた。
「ほらね、今回は失敗だ」友人がそう言うと、川田さんは「知らなくてもいいんだよ。さっきの店員が元少年の実名をみんなの前で公表した。それだけでも十分に面白いだろ」とぶっきら棒に返し、その後は何事もなかったかのように食事を楽しんでいた。
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