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食人鬼
行脚していた夢窓国師は、深い山奥で道に迷い、日も暮れかけた時、庵を見つける。そこに一人いた老僧に教えられてようやく小さな村に行き着き、村長の家で泊めてもらうが、深夜になって村長の息子が言う、「先ほど父が亡くなりました。村の掟に従い、村人は、死者があった夜は全員村を離れなくてはなりません。そうしないと、必ずたたりがあります。しかしあなたは旅でお疲れでしょうし、この村の者ではなく、お坊様ですから、お望みならここにお留まり下さい」。夢窓は村長の家に一人残り、村長の亡骸を前に読経しながら弔いの行を勤める。すると、突然金縛りに遭ったように動けなくなったかと思うと、もうろうとした大きなものが現われ、亡骸を食らい尽くしてまたいずこへともなく消えた。
翌朝、戻ってきた村人たちにその夜の事を話すと、村に伝わる話と同じであると村長の息子は言う。だが夢窓が、あの庵の僧は死者の弔いをしてくれないのかと問うと、意外な答えが返ってきた、「そのような庵はありませんし、もう何代にもわたって、このあたりにお坊様は居られません」。
夢窓国師が前夜来た道を戻ると、庵はすぐ見つかった。老僧は夢窓の前に両手をついて言う、「昨夜はあさましい姿をお見せしました。村長の家に入り込んで遺体を貪り食った化け物は私です。私は食人鬼なのです。はるか以前、私はこの郷のただ一人の僧でしたので、たくさんの死者を弔いました。しかし私は、それで得られるお布施の事しか眼中になく、その妄念によって、死後食人鬼に生まれ変わって、近辺で死ぬ人の亡骸を食っていかねばならなくなりました。どうかこんな私をお助け下さい!」。そのとたん、庵も僧も消え、夢窓の眼前には古い苔むした墓石があるだけだった。
小泉八雲の作品を俺は読んでいた。
アパートに引っ越して1ヶ月、隣の部屋はタバコ臭い。
「キャァァァッ!」
隣の部屋から悲鳴が聞こえてきた。
キッチンにある包丁を手にして隣の307号室に向かった。
メガネをかけたオッサンが背中から血を大量に流して死んでいた。
それにしても妙だ。
この死体には鼻がない。
まさか!食人鬼!?
アパートの管理人が駆けつけてきた。
どことなく高倉健に似ている。
「まさか?アンタがやったのか?」
「違う!俺じゃない!」
管理人が電話をしている。
いけない!通報する気だ!
俺は管理人を背後から突き刺した。
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