通学路

1/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

通学路

 これは後藤さんという主婦が十代の頃に体験した話である。  後藤さんは生まれてから中学校を卒業するまでの15年間を、人口千人程度の村で過ごした。村の中心を通る県道付近に学校や村役場といった公共の施設が集まっていたが、村民の大半が農業に従事しているため、県道を取り囲むようにして広大な農地が広がっており、住宅は農地ごとに点在していた。  後藤さんの家は村の中でも特に辺ぴな場所にあり、登校する際には他の生徒が誰も通らない「呪われた農道」を歩く必要があったという。その道を避けた場合は大変な遠回りになり、早起きしなければ学校に遅刻してしまうのだった。 「あの道は使わないほうがいいよ」と友達は心配そうに助言をくれたが、朝にめっぽう弱かった後藤さんは、いつも手を合わせてから駆け足で通り抜けていた。  農道とは言ってもトラクターが走ることはなく、背の高い草が生い茂った荒れ地の真ん中に、舗装されていない砂利道が一本あるだけだった。  そんな道の途中に一軒の空き家があった。田舎には不釣り合いな二階建ての洋館である。  なぜ「呪われた農道」と呼ばれているのか。村人なら誰もが知っている凄惨な事件が、その建物で起きたからだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!