ある昼下がりのボクの話

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 なんと言葉を返そうかと頭を悩ませていたところに、外で車が停められた音がする。続いてバンッと扉を閉める音。長机に置かれた小さな陶製の置き時計を見ると、時刻はもうすぐ十五時だ。とすれば、やってくるのは―― 「吉貴(よしたか)! 待たせたな!」 「待っていません」  そう不愛想に切って捨てる割に、高村さんの雰囲気は優しい。これは高村さんと長くいると、段々わかってくることだ。 「教授の使いで来たんだよ。古い資料が見つかったって?」  それよりほら、お前の好きな焼き菓子も買ってきたからお茶にしようお茶。そう言って気安い距離で話す二人を羨ましく眺めながら、ボクは上着のポケットに入れたスマホに手をやる。  話の流れで、いつか絶対一緒に暮らそうねと送られてきたメッセージに、ボクはまだ返事ができていなかった。ただもちろんだと送ればいいだけなのに、躊躇する。文字は打ったのだ。  休憩室へ向かう二人から目を離し、スマホの画面を開いて、 「静紅さんもお茶にしましょう」  勢い送信ボタンを押して、パイプ椅子から立ち上がる。  大丈夫だ。これはボクの大事な気持ち。 「はい。お茶淹れるの手伝います」 「俺は珈琲がいいな」 「信藤くんも自分で淹れなさい」  あとはボクが、どうしていくかだけだ。
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