古本屋にて

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古本屋にて

季節は冬が近づいているというのに、どうも暖かい。 普段ならこんな日は客もまばらに来るのだが今日に限っては客足が遠いようだ。 こんな日には買い取りした本をチェックしながら読書をするのが私の日常だ。 チェーン店の影響もあってか漫画やライトノベル等の若者受けする本の入荷は少なくなってきたが、代わりに専門書のような本が増えてきた。 中には洋書もあるがこれはほとんど手をつけない、読めないからだ。 ただ一冊だけ気になる本がある、もういつからあるか私自身も覚えていないのだが、鮮やかな緑色の本だ。 あまりにも古そうな本だから普段は店頭にはおかず、裏の本棚にしまっている。 要望があれば出そうかと思うがそんな機会はとんと来ることはなかった。 買い取った本を読んでいるとカランと言う音が響いた。 私は本から視線を入口に向けた。 そこには少女がいた、黒髪ではあるがよくよく見ると日本人離れした彫りの深い顔立ちだった。 「本を探しているのですが」 透き通った声で私に問いかけた。 「はい、どのような本をお探しなのでしょうか」 「洋書なのですが、緑色の表紙で結構古いものになるのですが」 あの本のことだろうか、私はすぐに鮮やかな緑色の表紙を思い出していた。 「ありますか?」 「あぁ、すみません。ございますよ」 この少女の瞳を見ているたら回答が遅れてしまった。 ほんの一瞬ではあるが何かに憑りつかれたようにも感じる、そのような真黒の瞳を私に向けていた。 「裏にあるのですぐにお持ちしますね」 机の中から年代が古い本を扱うようにしている薄手の手袋を持ち、あの本が眠る本棚に向かった。
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