古本屋にて

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この本を取り出したのは何年前だっただろうか。 手袋をつけ、本を取り出す。 改めて見てみるとあんなにも美しいと思っていた緑色は色褪せ、くたびれていた。 それだけ私も老いたのだろう、少女を待たす訳にもいかない、すぐに戻ることにした。 「お待たせしました、うちにある緑色の洋書はこちらの本だけですね」 「そう、その本です!」 表紙を見た少女はにこやかに私の前にやってきた。 「この本いくらですか?」 まただ、また真黒の瞳をこちらに向けてくる。 先程とはまた違うその眼に恐怖を感じた。 「おいくらですか?」 「あ、あぁ。たびたびすみません、ええと料金ですね、あれ?」 店の商品には一番最後のページに料金の書いた紙を馳せているのだが、この本にはそれがなかった。 「ねえ、あなたはこの本には何が書かれているか読んだことあります?」 少女は微笑みながらこちらを見つめている。 「いえ、失礼、私はなにぶん外国語が苦手でして、そしてこの本自体も気にはなっていたのですが、中身までは読んでないのですよ、いつからあったもわからない本ですからね」 「そう、じゃあ教えてあげるわ」 少女はふふふと上品に笑った後も。 「それは読むと死ぬ本よ」 とても厭な笑顔を私に投げかけた。 どうやら私は気を失っていたようだった。 気が付いたら私はいつものカウンターに座っていた。 そもそもあの真黒の目を持つ、彫りの深い、厭な顔の少女は私が見た夢なのではないだろうかと思う。 ふと、カウンターに目を向けるとあの緑色の表紙の本が置かれていた。 やはり色褪せている。 手袋もつけたままだったのでその本のページを何枚か捲った。 そこにはあの少女の写真が載っているではないか。 私は厭な気持ちになった。
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