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 あの夢の、言葉になっていない、声。 「早く、こっちへ来い!」  あの声は、そう言っていた。  ーーそうだ。  夢の声は、隼人の声だったのだ。  白い夢の、その先にいたのは、隼人だった。  なんてことはない、沙耶はずっと、隼人の夢を見ていたのだ。 「高校の卒業式の日さ、お前ん家火事で大変だったんだろ? ずっと心配だったんだ」  沙耶は面食らう。同じクラスだったとは言え、初めて話すと言っても過言ではないのに、隼人はいきなり火事のことを話題にしてきた。  沙耶は救急車で病院に運ばれ、一命を取り留めた。火元である台所にいた母は、助からなかった。  沙耶は火事の時の記憶がなかった。火事は不幸な事故で処理された。他の家への延焼がなかったことが、不幸中の幸いだった。  住むところがなくなった沙耶は、大学進学のため、退院後急いで、単身赴任中だった父とアパートを探した。アパート探しに出遅れた沙耶は、今のところを見つけるのも大変だった。その最中に慌ただしく、母の葬儀は済んだ。 「なあ」  目の前に座る、隼人はあの時の笑顔だった。暖かく、眩しくて、まるで。  太陽、みたいな。 「お母さん、残念だったな」  途端に、隼人から笑顔が消えた。無表情に、沙耶を見つめる。     
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