3人が本棚に入れています
本棚に追加
1
新しくボディソープを買った。白いボディタオルで泡立てると、花の良い香りがかすかに漂う。
風呂から上がると、思いつく限りのボディケアというものを行った。髪には専用のオイルというものをなじませてみたし、体にもボディクリームを塗りたくった。
顔は念入りに、化粧水、美容液、クリーム、とりあえず色々。
「うんうん、いい感じですかね」
沙耶はつぶやくと、自然と頬が緩んだ。明日のことを考えたからだ。
このために新調しちゃった。
沙耶はご機嫌で、ソファに座り鼻歌交じりにスマートフォンを手に取った。今月でたばかりの最新型だ。撮る瞬間逃さない! とCMしている。
身にまとう服だって新しいものだ。この季節にお似合いの、ピンクベージュの長袖ワンピース。肌寒くなってきたから、グレイのカーディガンを羽織ろう。カーディガンは去年買ったものだけれど。
沙耶は、スマートフォンで天気予報を見ることにした。はれはれ、晴れ以外はあり得ない。彼に似合うのは、白い雲と綺麗な青空。
「んーあれ? どれですかねえ。天気予報のサイトデータが引き継ぎされてないのでしょうか」
また独り言を言ってしまった。慣れていないスマートフォンの操作に、沙耶の脳の奥がチリチリした。
どん、沙耶の拳に痛みが走った。自分で拳を机に振り落としたのだ、と分かるまでしばらくかかった。
沙耶はため息をつく。またやってしまった。この癇癪待ち、どうしようもない、人間のグズ、グズ。
沙耶の目にじわりと涙が滲んだ。やはり、こんな自分では、彼に会いにいく資格はないかもしれない。自分なりにケアをした体も、新調した女子らしいメタリックピンクのスマートフォンも、ピンクベージュのワンピースも、急に色褪せて見えた。
また、気持ちのままに物に当たってしまった。感情をコントロール出来なかった。
沙耶は落ち込んで、敷きっぱなしの布団に潜り込んだ。急激な苛立ちから、急降下で落ち込んだ。なんて、情緒不安定。自身の感情の起伏に疲れ、そして急に眠くなった。
すると、視線を感じる。最近いつもそうだ。寝る前になると、気配だけが、沙耶を見つめる強い何かを感じる。
一人暮らしだ。あり得ない、あり得ない、沙耶は目を強く瞑った。
目の奥がじんわり暖かくなって、そして暗くなった。
最初のコメントを投稿しよう!