急「増援」

2/9
前へ
/9ページ
次へ
     ◇  ポタ、ポタタ、と。間近で(しずく)が地面に滴り落ちる音が聞こえる。(てつ)(さび)臭い匂いがした。自分の顔半分が液体で濡れている。生温かい。液体は(ほお)を伝って(あご)から地面に落ちていく。  周囲で戦っていた石兵と大嶽丸(おおたけまる)の分身も皆、(のき)並み動きを止めている。まず、石兵が崩れ去り、そしてもう用済みとでも言うように少年の分身も蜃気楼(しんきろう)のように姿を消した。  死を覚悟した。  間近に迫る鬼を見て。今度ばかりは避けられない、と。一歩あとずさり、身構える事しかできなかった。死はこんなにも突然やってくるものなのだと理解した。これまで何年、どれだけ努力を積み重ねた人生を歩もうとも。死はそんな事実を無視して平等に人の生命を無に帰す。走馬灯なんて浮かぶ暇も無かった。気が付いた時には目の前に刃があった。 「な、ぜ」  桃舞(とうま)は緊張で張り付いた喉から必死に声を絞り出す。荒い呼吸を整えて目の前に立つ女へと向かって。 「ごほっ」  桃舞(とうま)の前には、彼と向かい合う形で(ぎょく)が立っていた。その右肩から右胸にかけて巨大な切断面が覗き、真っ赤な鮮血に彩られた剣先が突き出している。桃舞(とうま)大嶽丸(おおたけまる)に切られる寸前、(ぎょく)は二人の間に割って入り、桃舞(とうま)を庇ったのだ。  大嶽丸(おおたけまる)は驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに無表情に戻ると、そのまま剣を引き抜いた。 「っぁ」  体から力が抜ける。崩れる体を桃舞(とうま)は咄嗟に抱き留めた。ぐったりとした体は小刻みに震え、その体から血液が流れていく様はまるで人間のようだった。 「よもや、身を(てい)して人間を(かば)うとはな。それは貴様らの総意か?」 「……ええ。ですが、その刀の存在は……私達にとっても計算外と……言わざるを得ない」  桃舞(とうま)の腕の中で、息も絶え絶えに言葉を紡ぐ(ぎょく)。傷が深すぎる。すぐに治療しなければ、このまま死んでしまう事は桃舞(とうま)の頭にもすぐに理解できた。 「お前! なぜ私を庇った!」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加