急「増援」

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桃舞(とうま)は叫んだ。彼女がここまでする理由が理解できなかった。確かに、これまでの会話から、彼女は桃舞(とうま)が今まで出会って来た(あやかし)とはどこか違う、意思疎通が成立する(あやかし)だとは評価していた。自らの正義に(のっと)って大嶽丸(おおたけまる)を封じようとしていたようにも感じる。しかし、根本的には相容れぬ者同士。千年にも渡り争いあって来た者同士だ。そんな敵対者に類する男を、自らの身を危険に晒してまで庇うなど。一体彼女は何を考えている。いや、まだ何か、話していない隠し事があるのかもしれない。 「……ッ!」  その時、無言で大嶽丸(おおたけまる)が刀を振り下ろした。間一髪、桃舞(とうま)(ぎょく)ごと横に飛びのいて攻撃を回避する。 「何故お主がその女を庇う。いかに共闘状態だとて、自らの憎悪を忘れたわけではあるまいに」 「だからと言って、ここであっさりと見捨てるなんてしないさ。そんな(あやかし)のような心無いマネ、この私がするわけがないだろう」 「情にほだされたか。人間はやはり理解できん」  大嶽丸(おおたけまる)は手に持つ刀の切っ先を桃舞(とうま)に向ける。その殺気に完全に補足されていると、空気から肌に直接伝わってくる。  明確な死のイメージ。巨大な肉食獣に狙いを定められたようなものだ。一度目をつけられれば、対象は強烈に命の終わりを想像してしまう。次の瞬間には首と胴体が別々に転がっているかもしれない。戦闘を始めてから、もう三十分は経過していた。  向かい合う二人は互いに無言。しかし、静寂はすぐに破られる。  音があった。 ぴちゃん、と水が跳ねる音。大嶽丸(おおたけまる)がその音を自覚した時にはもう遅かった。  次の瞬間、大嶽丸(おおたけまる)の右腕が切り落とされた。 「!?」  刀を握っていた腕が地面に落ちる。その刹那、目にもとまらぬ速度で、何かが大嶽丸(おおたけまる)の傍らを通り過ぎた。彼の握る霊剣を攫う形で。鬼は水に濡れる腕を見て、自分の腕を切断したものの正体が高圧で打ち出された水だという事を理解した。そして、この町で見かけた者の中で、水を操っていた男が脳裏に思い起こされる。その姿を、視線の先に佇む突如現れた人影に当てはめていく。
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