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ずん、と少年の体の着地と共に、地面が重みで僅かに陥没する。姿は形は小さく見えるが、その実は高層マンションのような巨体を持つ大鬼だ。その重量は見た目通りという訳ではないのだろう。
「あ、あ……」
その一瞬の攻防を目の当たりにして、霊剣を握る狼は体を強張らせていた。剣を握る手に無意識に力が入り、全身が恐怖に震えている。そんな白い少年に大嶽丸は視線を移す。次の標的に切り替える。
(まずい!)
「今すぐそこから離れるんだ! その剣を渡してはいけない!」
桃舞の声に狼ははっとしたように、身を翻してその場から離れようとする。しかし。
「え!」
狼の足が止まる。何か、地面に縫い留められたように足が動かない。狼が視線を足元に落とすと、自らの足を掴む手があった。切り落としたはずの鬼の片腕が。
「そんな! 腕だけで!」
狼が驚愕するのもつかの間、離れた位置で大嶽丸が残った左腕の指を指揮者のように上へ振り上げると、狼の足を掴んでいた腕が、アッパー気味に狼の顎を下から上へ打ち抜いた。
「びう!」
一撃で脳を揺さぶられ、まともに抵抗する力が削がれる。大嶽丸の腕はそのまま狼の首を鷲掴みにし、その小さな体を釣り上げていた。腕は鬼の妖力の影響か、何の支えも無しに空中に浮かんでいる。
「あ、あが……っ」
霊剣を握る狼の手から力が抜ける。霊剣は真下の地面に向かって落下するも、そのまま方向を変えて、まるで引力に引かれるように再び鬼の左腕に収まった。狼を掴む右腕は掴んだ首を放すと、続けざまにその頬を勢いよく殴りつけ、狼の小柄な体を回廊に囲まれた中門の奥へと吹き飛ばした。空中に浮いた腕は剣と同様、大嶽丸のもとまで引き寄せられるように飛んでいき、何事も無かったかのように元通りくっついてしまう。
「滅びたいのか、貴様ら?」
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