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戦場に君臨する絶対の強者は言葉を放つ。この程度はまだまだ準備運動。そう感じさせるような余裕を含んだ言葉。
「儂はまだ、己の姿すら開放しておらぬ。この十全な力も出せぬ姿でこの様か。千年前の人間どもの方がまだ覇気があったじゃろう。この程度の輩しか寄こさぬとは」
一瞬、よぎった。桃舞の頭の中に。もし、ここで自分たちが敗北してしまったら。この儀式を失敗してしまったら。考えるべきではない、と頭では分かっていても想像してしまう。
そんな思考を一つの足音が打ち消した。
それは立ち上がり、再び鬼の前にたった少女の足音。
「もう勝った気でいるなんて随分舐めてくれてるわね。最強の鬼だか何だか知らないけど。足元掬われるわよ」
ヨミだ。無傷ではない。左の口の端から一筋の血が滴っている。その頬には先程の一撃でついた打ち身の傷がある。本来、その程度で済むような威力ではないはずだが。
「そう。ぬしだ。先の一瞬でやっと理解した。お主なのだな」
「?」
恐らくその言葉の意図を理解できたものはこの場にはいなかっただろう。実際に言葉をかけられているヨミですら、突如鬼の口から出た言葉の意味を測れずにいた。
鬼はそんな事は眼中にないかのように言葉を続ける。
「この匂い。どこか懐かしい、あの匂いだ。貴様の主人の放つものだと思っていたが、その源泉は傍らに立つお主だったのじゃな。なぁ、式神。いや、人間の娘よ」
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