欠片

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どんなに泣いたって、どんなに偲んだって 人々の記憶からは、どんどん………どんどん消えていく。 いつ聞いたのか……、一番最初に最初に忘れるのは声だと誰かが言っていた。 あんなに名前を呼んでくれたことも、大丈夫と優しく声をかけてくれた声も、呆気なく忘れてしまうらしい。 次は、……なんだろう。 表情だろうか。 朗らかな太陽の様な笑顔も、悔しくて下唇をかみ締める顔も、分かりやすく、頬をふくらませ不機嫌ですって、アピールする様も、好物を目にした時に、2つの眼をキラキラと輝かせるその顔も、…………いつか、僕の中から消えていくのだろうか。 手の温もりも、そこにいた記憶も。 全て、等しく、新しいものへと更新されていく。 命あるものには等しく終わりがあって、それはきっと生まれ落ちた瞬間に定められた事で。出会った時から覚悟してきたはずの終わりに立ち会った時、僕らは涙を流す。 終わりは悲しい。 終わりはいつも、僕の心に冷ややかな風を吹かす。 さよならには、まだ。早いだろうと、1人呟いて、足早に死臭と、線香の香りがするそこから、僕は足を遠ざけた。
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