寸善尺魔

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 にへら、と笑いながらそういう大我を、黒田は表情を変えずに見ている。  そんな黒田の視線が思っていた以上にトゲトゲしていたのか、大我は笑みを崩さぬまま否定を続ける。  「俺、独りごととか結構ぶつぶつ言うタイプだからさー。おかしい奴だなーと思っても温かい目で見守ってくれよ」  「・・・わかった」  まだ納得していなさそうだが、とりあえずは大我の前から姿を消した。  そのまま寝床に向かうと、目を瞑っているサラムの横に身体を寝かせる。  「あの大我って男、どう言う奴なんだ?」  「知らない。逃げてる途中で会っただけだ」  まだ寝ていなかったらしく、サラムは黒田の問いかけに対し、目を瞑ったまま答えた。  その後しばらくしてから寝てしまったようだが、大我が寝床に戻ってきてから寝静まるまで、黒田が眠ることはなかった。  翌日、サラムが起きるとすでに起きていた清涼は、教会に寝泊まりしている子供たちと遊んでいた。  穏やかな表情をしているからか、懐かれているようだ。  サラムはそれを特に気にすることもなく、顔を洗いに向かう。  「ケン坊」  「はいはい、ちゃんと仕事してますよ。このクマ見てくれると助かりますね。どうしてこんなに俺のところに仕事が回ってくるんですかね。こういうのをブラック企業って言うんですかね」  「そう言うなケン坊。おしるこ買って来てやったから」  「俺の時給はおしるこじゃ賄いきれませんよ。もらいますけど」  間ノ宮からおしるこを受け取ると、健はパソコンのとある画面を見せる。  そこには、今現在、誰かの居場所と思われる印がついており、それを見た間ノ宮はすぐに携帯を取り出して素澤に連絡を入れる。  仮眠を取っていたのか、電話に出る時少し不機嫌そうな声をしていたが、間ノ宮は気遣う様子もなく話をした。  「さすがだなケン坊。頼もしいよ」  「そう言うなら、もっと給金上げてほしいですね。それかボーナス。月にどのくらいの目薬消費してると思います?」  「ありがとう。本当に助かるよ」  「俺の話聞いてます?俺の声超音波になってないですよね?聞こえてますよね?」  「この調子で頼むよ」  健の肩をぽん、と労う様に叩いて部屋を出ていってしまった間ノ宮に、健はもらったおしるこを両手にもって大人しく飲むしかなかった。
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