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「はあっはあっ・・・!!」
「待て!!」
「逃がすな!必ず殺せ!!」
一人の男の背中を追いかける複数の影。
追われている男は、黒髪を揺らしながら走っていたが、その黒髪はいつの間にか銀髪に変わっていた。
木々が生い茂っている森の中を全力疾走で逃げ続けている男だったが、ついに足を止めてしまう。
足元には、断崖絶壁が姿を見せたからだ。
「とうとう追い詰めたぞ!」
「大人しくしろ。抵抗するようなら殺すからな」
じりじりと詰め寄ってくるそれらに、逃げていた男は決断をする。
「待て・・・!!!」
まるで奈落の底へと誘うかのような深い崖の底へと、真っ逆さまに落ちていった。
その姿を、ただただ見つめることしか出来ないでいると、リーダーの男が指示を出す。
「崖の下に向かえ。死んでいたとしても、捕まえるんだ」
複数の影たちは、その指示に従って列を成し、再びあの男を見つけるために走る。
リーダーの男は、土の上に落ちていた黒髪のウィッグを拾い上げると、土の上に強く投げ捨てて足で踏みつけた。
「クソっ・・・」
「もう付いていけません」
「あ?何言ってんだ?」
「あなたの傲慢さにはほとほと呆れました。それに、仕事に関しても不満が積み重なってしまい、もうこれ以上、同じ職場では働けません。同じ空気も吸いたくありません」
「俺は上司だぞ。お前のことなんて、一言言えば辞めさせることも出来るんだからな」
「圧力ですか。そんなんだから、火鷹もあなたから離れてしまったんです。申し訳ありませんが、私もしばらくお暇を取らせていただきます。将烈さん」
数日前、この将烈という男の直属の部下である火鷹という男が、もう付いていけないから辞めたいと言いだした。
そして今日、波幸というこれまた直属の部下に同じようなことを言われてしまった。
将烈はネクタイをゆるめながら煙草を吸うと、勝手にしろと言い放った。
波幸は一礼をして部屋から出て行くと、眉間にシワを寄せた将烈だけがそこに残る。
それから少しして、ノックがした。
部屋の中に招き入れると、それは将烈と同じ歳の間ノ宮という男だった。
黄土色の髪に、左目の下には怪我をしたような痕がある。
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