3杯目 ポティロンとタネ

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------ ハロウィンもいつの間にか過ぎ去り、Mielは早くもクリスマスの装飾に覆われていた。 朱莉はCafe Mielの二階にある自室で、ひっそりと紅茶を楽しんでいた。 今日は祝日。久しぶりに部活のない休日に、朱莉は一人でこっそりとくつろぎに来ていた。もちろん、家族やMiel(ここ)の従業員である優馬や叔父さんには事前に伝えているわけで、混雑しているはずの今日でも最低限の用意が揃えられているのである。 多忙なお店に手間や迷惑をかけるわけにはいかないので、今日は持参したお菓子やお弁当を広げて随分久しぶりな読書に勤しんでいたのだけれど。 ふと思い出すのは、先日の大会で見かけた人のこと。 どうにも似ている気がするのだ。 けれど、確信があるわけではない。他人の空似かもしれない。 サーブを打つ時に見えただけだから、見間違いと言われればそれまでだ。 けれどーーあの顔はどうにも似ていたのだ。 ーーーー有馬さんに。 「隠れるように見ていたのに、本人に聞くわけにもいかないしなぁ……」 読んでいた本を思わずパタリと閉じて、ソファに身を投げ出した。 もしあの人が有馬だったとして。 どうしてあの場にいたのか。 運動公園と言っても、あそこはテニスコートしかないのだ。 誰かの応援だったのだろうか。 きっと、答えは出ない。 そもそもあの人が有馬だという確証は出ないのだから。
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