1杯目 高台の喫茶店

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「今朝、ハルから連絡もらって。午後から出かけるらしいから迎えに行ってやってほしいと」 どうやら先程の問いの答えらしい。 ハル──陽仁(はると)兄さんに今日出かけることを伝えていた。 ありがとう、と小さく御礼を告げると、彼はバックミラー越しに微笑んで見せた。 「それよりも、お仕事抜けてきて大丈夫?」 「まぁハルからの指示だし大丈夫でしょう。それにハルは会議中だし、これも執務の一環ってことで」 雄大は十五歳離れた兄の秘書である。 父が経営している会社の社長を務め、多忙な毎日を過ごしているが、それを隣で支えているのは今、この車を運転している秘書の荒木雄大であった。 雄大の家は小鳥遊家が住む高層マンションの1階下に住み、幼い頃から幼馴染として共に過ごした。 兄が父の会社を継ぐと決まった時、兄は「秘書には雄大を」と自ら指名したのだと聞いた。 雄大にも十歳離れた弟がいて、幼い頃は朱莉と良く遊び、仲良くしていたのだが、彼が高校入学と同時に朱莉と疎遠になってしまったのだ。 彼が今、どこでなにをしているのかは、雄大から話題になることはないのでわからない。
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