3杯目 ポティロンとタネ

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ーーーー 秋大会が終われば、ぐっと秋も深まる。 真琴とのいつものお茶会がCafe Mielで開かれていた。 完全予約制のミエルでは、予約争奪戦になることも珍しくはない。 そして今日も今日とて、その予約戦争を勝ち取ってやってきたのだけれど。 向かいに座る真琴は、どこか疲れた様子で黙々とお茶を飲んでいた。 「……大丈夫?」 「もうダメ……」 聞けば、先日行われた中間考査の結果が芳しくなかったようだ。 秋大会が終わってすぐにテスト週間に入った朱莉の学校ーー私立百合丘学園は、五日間試験が続く。 直前まで部活に力を入れていた朱莉たちテニス部も、悲鳴を上げながら試験勉強をしたものだ。 「赤点はなかったんでしょ? だったら大丈夫だよ」 「赤点じゃないけど、あれはほぼ赤点だよ〜。……パパに怒られる」 唸りをあげて机に突っ伏す真琴をどうにか宥めて、プレートに乗ったお菓子に手を伸ばした。 今日はハロウィン特別プレートを頼んだのだ。 ハロウィン期間の前後一週間限定で登場するこのプレートが毎年人気らしく、いつも以上に予約争奪戦となるらしい。 もちろん今回予約して勝ち取ってくれたのも真琴だ。このお茶会はいつも真琴が予約をしてくれている。 「ほら、この間試食したポティロン美味しいよ」 あーん、とポティロンを掴んで真琴の口に持っていくと素直に口を開ける。それが小動物を見ているようで可愛いのだ。 「お口に合いましたか?」 「えぇ、とっても美味しいです!」 突然現れた有馬に驚くことなく、真琴が伏せっていた身体を勢いよく起き上がらせて応えた。 「よかったです。その節は貴重なご意見ありがとうございました」
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