prologue

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 港町の高台に建つこの家は、かつて華族の所有物であった。   洋風建築の古めかしい外観とは異なり、内部は何度かのリフォームを経て、近代的で使い勝手の良い作りになっている。   そんな家──屋敷は、現在の所有者の好意で貸し出され、『執事』を模した装いで接客をする、いわゆるコンセプトカフェとして予約優先制の紅茶店を運営されている。   二階建ての屋敷が喫茶店として使用するのは一階のわずかな部分のみ。   玄関を潜りエントランスを抜けると、お世辞にも広いとはいえない部屋へと通される。席数は二人掛けが六つ。最大で十二人が入れる部屋だ。  時間は九十分制ではあるが、デザートはもちろん、紅茶がおいしいと巷で噂になっているという。  特に、アフタヌーンティーのセットは人気がある。 「失礼します。こちらがメニュとなります。先にドリンクをお伺いいたしますが、いかがなさいますか?」   黒いメニューボードを手渡し、ドリンクメニューに手を添えて案内する。二人は悩んだ様子で、メニューを目で追っていた。
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