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Cafe Miel は港町の高台に佇む古いお屋敷の一部を使用して営業している予約優先制のカフェである。
フロアスタッフは全部で五人。『執事』として、お客様をエントランスから席へ案内し、料理とドリンクを提供する。
「……何故こちらにいらっしゃるのか、伺っても?」
閉店後の店内でジャケットを脱いだ『御影』は、目の前にいる少女を椅子に座らせ、その前で仁王立ちして訊ねた。
「だから、たまたまだって言っているじゃない」
「えぇ、それは先程から何度も。わたくしが申しているのは、何故、営業時間内にお客様としてご来店されたのか、ということです」
長身から見下ろし冷笑する御影に、首をすくめて目をそらした。
「──お話中失礼します。よろしければ、お召し上がりください」
ティーセットとクッキーを数枚トレイに載せてやってきたのは、同じフロアスタッフの有馬だ。
「すみません、ありがとうございます」
「──有馬さん、まだ残っていらっしゃたのですね」
「えぇ、私だけではなくまだ何人か。御影さんがこんな時間にお客様とお話しされていると聞いて、皆気になっているようで」
そう言うと有馬はチラリとバックヤードの方に視線を投げる。釣られるように御影と彼女も目を向けると、バックヤード扉から、何人かが興味深そうにこちらを窺っていた。
「…………」
「あぁ、私としたことが。お話中に大変失礼をいたしました。どうぞごゆっくり」
白々しく慌てた様子で一礼すると、有馬は足早にバックヤードへと戻って行った。
「……ご自宅に連絡して参ります」
「はぁい」
有馬の登場に毒気を抜かれたのか、御影は静かに頭を下げた。
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