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彼女──小鳥遊朱莉がCafe Miel を訪れたのは本当に偶然だった。
もともとは海辺の別荘として朱莉の家族が所有していたこの屋敷も、大きくなるにつれて使用する機会が減った。
二人いる兄は年が離れているため、すでに社会に出て別荘を利用することはほとんどなくなったし、未成年で学生である朱莉もあまり利用することはない。
人がいない屋敷は朽ちるだけである。朽ちるよりはと、朱莉の父は知り合いに貸し出し、喫茶店となることに決まった後は特段用事がない限りは訪れないように、と家族内で決めたのだ。
「本当にたまたまなのに……」
有馬が運んできた紅茶を一口飲み、ポツリと呟いた。
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