雨の日の記憶

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始まりはそう、いつも雨の日だった。 今日も例に漏れず朝からしとしと降り続き大きな窓を濡らしている。 こんな日には何故か分からないのだが、胸がぎゅっと苦しくなるのである。 寂しくて、孤独で、この大都会に人は五万といるのに一人ぼっちで、まるで終わりのない真っ暗な海に一人浮かんでるような気分だ。 訳もなく涙が溢れ、嗚咽が漏れる。 苦しい、痛い。だれか助けてほしい。 何故こんなにも寂しいのか。 私が知らない私がどこかにいるのか。 愛する人との別れのようにじわりじわりと黒いものが心に広がってゆく。 「また泣いてるの?」 「…雨、だから。」 「僕に何かできることがあればいいんだけど…」 「ううん、ごめんね。仕事はちゃんとするから。」 ほら、こうして気にかけてくれる人だってすぐそばにいる。 体調が悪いわけではない。生活が苦しいわけでもない。 むしろ欲しいものはなんでも手に入る。 なのにこの寂しさだけはどうしても埋められないのだ。 「そう…無理はしないで。」 「ありがとう。」 心優しいマネージャーのお兄さんは私の頭をひと撫でして部屋を出ていった。 バタン、とドアが閉まる音がするとまた雨が強くなる。 そして私の目からも再び涙が零れ落ちるのである。
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