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5. 雨の日の秘密
なんとか元の顔に直して急いで楽屋に戻る。ちょっと目が腫れちゃったかな、私としたことが。居眠りなんてしなきゃよかった。
楽屋の扉を開けるとまだ眉毛が下がったままのお兄さんがいた。
「ミア、本当に……」
「大丈夫。スタジオ行こ。」
「僕にできることは?」
「じゃあ…後で話聞いて欲しい。」
「もちろん。」
頷いてくれた彼に元気よく行ってきます、とスタジオ入りした。
今回の収録は来週から放送が始まるドラマの番宣も兼ねている。人気のバラエティ番組で芸能人の秘密を本人が暴露するというものだ。私はもちろん、雨の日のお話。
「さて、お次は今や国民的女優、ミアさんの秘密、ということですが!ミアさん。視聴者の皆さんが一番楽しみにしていらっしゃることでしょう。」
「恥ずかしいですね。本当に大した秘密なんて無いのでがっかりさせてしまうかもしれません。」
「いえいえそんな事はないですよ。ではさっそく教えて頂いてもよろしいでしょうか。」
「はい。私、ミアの誰も知らない秘密は、
"雨の日になると涙が止まらなくなる"ことです。」
「おお~、これは美しいというか悲しいというかなんというか……解説して頂けますか。」
「はい。もうそのまんまなんですけど、雨が降り始めると勝手に涙が溢れてしまうんです。」
「ほう、またそれは不思議な話ですね。実は収録日の今日、今もまさに外では雨が降っているようなんですが…」
「ふふ、はい。実はさっきほんの少し楽屋で…ドラマとか、涙のシーンの撮影ならとってもありがたいんですけど、そうじゃないことの方が多いのでちょっと困ってます。」
「そうですよね、年中雨の日に悲しいシーンの撮影があるわけじゃないもんねえ。これは大変だ。いつ頃からなんですか?」
「ここ数ヶ月の間ですかね…本当に突然でした。」
「何が原因とかは分かってたりします?」
「いえ、それが全くの謎なんです。たぶん低気圧のせいなんじゃないかなーと勝手に解決してます。」
「そうなんですね、こんな美しいミアさんを泣かせてしまうなんてひどい奴ですね、低気圧というのは!」
スタジオに笑いが起こる。司会の人が上手くまとめてくれて私の話は終わった。
最後にドラマの番宣をしっかりして収録は無事に終了した。
引かれちゃったかな、あんなこと言って。ほんの少し秘密を打ち明けたことを後悔しながらお兄さんのところへ戻ると、お疲れ様と肩にブランケットをかけてくれた。
「みんな私のこと変な人だと思ったかな。」
「そうでもないんじゃない?ただの低気圧のせいだし。気にすることじゃないよ。」
「そうだといいんだけど。」
「うん。ではお嬢様、今日のお仕事はこれでおしまいです。いつもより少し早く終わりましたがこのまま家に帰りますか?」
「ふふ、そうね帰ろうかな。あ、スーパーに寄ってから帰ろう。今日は温かいものを飲みたい気分。」
「かしこまりました。お嬢様。」
「もう、やめてってばー!」
きっとお兄さんは私を励まそうとしてくれている。そう暖かく包んでくれる存在がいるから私もまた笑顔になれるのだ。
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