あくま。

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 あれ?と郷田絢音は首を傾げた。大学受験マジウザイ、とぶつぶつ言いながら登校してきた教室。自分の机の中に、見覚えのないものが入っていることに気がつく。 「なんじゃこりゃ?」  それは、真っ黒な一冊の本、だった。厚さは文庫本程度。大きさは勉強用のノートくらい。ただ、異質なことに表紙も裏表紙も真っ黒な墨のようなもので塗りつぶされている。タイトル部分だけ、白い油性ペンらしきもので一行――アクマノート、とだけ書いてあった。 「…悪魔ノート?…うっわ、誰よこんな悪戯したの……」  思い出したのは、一昔前に大流行した漫画だ。死神が落としたノートの話。名前を書くと人が死ぬノートで、それを拾った大学生が世界を変えようとして次次余計な人間を殺していくというあの物語。このノートの製作者が、アレを意識していないとは思えない。というか、十中八九パクったのだろう。 「発想貧困すぎだし。……しかもこれ…」  開いて見れば、そのノートの1ページ目には日本語でこんな文章が書かれていた。 “このノートを拾った人は、リストの最後に自分の名前を書き足したあと、一週間以内にまだこのノートを拾っていない人に、これを渡して下さい。  渡す人は、学校内の、まだこのノートを所持したことのない人に限定されます。既にこのノートが渡ったことのある人に渡しても効果はありません。  直接手渡しでなくても構いませんが、それをしないと、貴方は一週間後に死にます。  このノートを廃棄したり破損しても貴方に呪いが降りかかります。生き残る方法は、まだノートを持ったことのない人にノートを渡すことだけです。”  要するに。これは非常にわかりやすい――不幸の手紙の、ノートバージョンということだ。 「くっだんね…。馬鹿げてるし。受験で忙しい忙しいとか言っておいてみんな暇なの?あきれった…」  一体誰がこんな手のこんだ悪戯をしたのか。パラパラとページをめくって、さすがに少し驚いた。説明文を書いた1ページ目よりあとが名簿になっていたのだが――2ページ以降は、人の名前でびっしりと埋め尽くされていたのである。まさか、もうこんなにたくさんの人にノートが渡ったということなのか。というか、こんな馬鹿げたものを信じたアホがこんなにたくさんいたとは。よくよく見れば教師の名前も混じっているではないか。
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