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絢音がノートの存在を思い出したのは、三日後の放課後のことだった。
――あー…片桐先生の授業マジでたっるー。…あんな授業しかできないからこんなクソ学校に飛ばされんだよー。さすがクソ学校だと先生もクソだわー。
聞く価値もない授業は基本的に寝て過ごしている。どうせ注意されることもないのだから真面目なフリをする必要はない。欠伸をしながら帰る支度をしようとした絢音は、机の中を探ってノートの存在を思い出したのだった。
「あ…これ捨てるの忘れてた。どうしよ」
こういうノートをゴミ箱に捨てたら叱られるのだろうか。古紙回収に出せとかうんたら言われたらそれはそれで面倒くさい。
と、そこで絢音は良いことを思い出した。そうだ、どうせなら――大嫌いな、あの女に押し付けてやればいいではないか。
――聡美はこういうの結構コロっと信じそー。あいつバカだし。
クラスの中で一番嫌いな女――門倉聡美。底辺レベルのクラスの中では少し可愛いからと周りからちやほやされ、無駄に男にモテてはそれをひらけかす最高に嫌な女子だ。受験では東大を目指しているらしいなんて噂も聞いて鼻で笑ったものである。お前程度の学力で東大なんか行けるか、ボロクソになって受験に落ちて大泣きして悔しがれよ、といつも遠巻きにして見ていた。彼女のやること成すこと鼻について仕方ない。卒業前に、あいつにものすごい恥をかかせてやりたいと思っていたが――これは、いいチャンスかもしれない。
――このバカノートをガチで信じて、精々ビビればいいのよ。一週間後に死んじゃう、助けてー!なんてみっともなく泣きわめけばいいんだわ。
とはいえ、自分がコレを回したと思われるのは少々面倒くさい。リストに名前を書き加えることはせず、絢音はそのままノートを聡美の机の中に放り込んだ。
ミッションコンプリート。受験勉強のラストスパートのこの時期に、ストレス抱えて怯えて是非とも不合格になってもらいたいものである。
「はっ!ざっまあ~」
笑いながら絢音は、教室を後にした。
絢音の行動を見ている人間は誰もいない。――誰もいない、はずだったのだ。
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