あくま。

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 *** 「嘘、でしょ…」  次の日。絢音は自分の机の中に――昨日聡美に押し付けた筈の“アクマノート”が戻ってきていることを知る。  同じノートだ、間違いない。1P目の筆跡も、何もかも同じなのだから。ただ、違うことが一つ。  トビラに、真っ赤な血のような文字が書かれていたのだ。 “既にノートを持ったことのある人間に渡しても 無効です。” ――持ったことのある人間、ですって!?  HR前のざわついた教室。誰も、一人青ざめる絢音に気づいた者はいない。絢音は一人、名簿の名前を探した。あまりにも数が多すぎて苦労したが――割と早い段階で、門倉聡美、の名前があったことに気づく。 ――昨日、アタシは最後に教室を出た。誰にも私の行動は見られてなかった…なのになんでアタシのところにノートが戻ってきてるの?それに何よ、何なのよこの文字…!!  聡美本人がノートを突っ返してきた、とは思えなかった。彼女はとっくに部活を引退して帰宅部である。昨日は早々に帰ったのも自分は目撃している。というか、自分より遅くまで教室に残っていた人間はいなかったはず。なら、このノートを自分の机に突き返したのは聡美ではない。 ――まさか…まさかこれ、本当に呪いのノートだっての…!?一週間…一週間以内に、誰かに渡さないとアタシ…。  死。 ――いやっ…そんなの、絶対嫌よ!!  絢音は混乱したまま、ノートをバッグにつっこんで教室を飛び出した。鬼気迫る様子の聡美に気づき、何人かが声を上げた様子があったが――気にしている場合ではなかった。  とっさに、現在付き合っている彼氏の修也に連絡を入れようかとも思ったが――彼は同じ学校とはいえ、かなり真面目に勉強している人間である。もうすぐHRが始まるこのタイミングでメールを送ってもきっと返信してくれることはないだろう。  そもそも、こんな馬鹿げた話を信じて貰えるかどうか。 ――死にたくない…なんでアタシが!アタシが死ななきゃいけないの、ふざけないでよ!!
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