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彼女の背中が好きだった。わたしは彼女の背中を撫でたがった。彼女は決まって、クスクスと笑った。いつでも撫でさせてくれるものではなかった。
いつからか、彼女の背中の感触は変わっていった。徐々にだがまったく別のものになっていった。そんなことが重大な理由ではなかったけれど、わたしたちはもう永遠に会わないような別れ方をした。
あの頃、彼女は冷ややかなカミソリを取り出して、その切っ先を自分に向けていた。その姿を目の当たりにしたことはない。でも想像することはできる。彼女が、彼女自身で、彼女自体を刈り取っていく。それまで彼女の一部であったものが、彼女から分断されて、彼女ではないものになる。
彼女はわたしにだけ、白い毛のことを打ち明けてくれた。親友にも家族にも言わなかったことを、わたしにだけ。だから、わたしも彼女の選択に対して、いちいち口を挟みたくなかった。だから、結局は、重大な出来事は、わたしの目の前で起きていながら、わたしを通り過ぎてしまっただけだった。
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